海上保安庁練習船こじま
この度私は、海上保安庁幹部養成施設、海上保安大学校実習生40名と乗組員45名を乗せた練習船こじまの船医として、2014年5月7日~8月12日の約3か月間、サンフランシスコ~パナマ運河~ニューヨーク~イタリア(リヴォルノ)~スエズ運河~インド(コチ)~シンガポールを経由する、世界一周の遠洋航海を経験させていただきました。医局内で船医依頼の話が持ち上がった時、瀬戸内海のフェリーにしか乗船したことのない船の素人が、いきなり外海に出て動揺の中医療を提供できるか否か多少不安を覚えることもありましたが、人生の夢の一つであったパナマ運河・スエズ運河を通行出来る事を知り、即決断いたしました。
出港地は海上保安大学校が位置する広島県呉市です。医局内では底辺の地位である私が、船上では3番目に偉い身分(笑)であるという事に戸惑いを感じながら、現実感のないまま出港することとなりました。海の上での生活は全てが新鮮です。見慣れた地元瀬戸内海を走り抜け、豊後水道を通過中に次第に船の動揺が大きくなり、外海に出た時に広がる360度の水平線の大パノラマはいくら見ても飽きることがありませんでした。また大海原を航海中、各部署の業務や毎日洋上で行われる実習も見学させて頂きました。医療以外の世界を目の当たりにすることは、非常に貴重な経験であり、様々な見聞を広めることができました。その他にも各寄港地ではレセプションが開催され、coast guardの船員達と拙い英語で会話することにより国際感覚の涵養を図ることができたと思います。一番印象に残った思い出は、やはりパナマ運河とスエズ運河です。これら国際運河は人間の努力の結晶であり、壮大な景色は薄汚れた私の精神を浄化するとともに感動さえ与えてくれました。楽しい時間はすぐに過ぎ去り、航海も半ばを迎えインド洋の時化る中、初めは初々しく見えた実習生も黙々と元気よく働いており、出港時と比べてたくましく成長しているように見えました。
船上での生活を惜しみながらあっというまに98日間の船医生活が終了し、振り返ってみれば医務室受診者数はのべ36名と過去最も少なく、重病者を出さずに無事航海を終えることができて安堵の気持ちとともに、改めて海の男・海上保安庁のたくましさを痛感しました。
このような貴重な機会を与えてくださった、山本先生をはじめ、医局員の先生方、同期後輩の先生方、そして何よりも海上保安庁乗組員・実習生の方々、誠にありがとうございました。女子医大消化器外科で代々受け継がれている船医活動は、楽しいだけでなく自分を成長させてくれる良い機会だと思います。この素晴らしい伝統が継承されることを心より願っております。